yae.+日吉の住まい
 昭和56年建築の木造の一戸建て住宅を、ショップ機能(yae.)を持つ住まいに改修する計画である.

 
クライアントとの出会いは2018年8月、事務所への突然の電話だった.30代前半の夫婦とその子ども家族である.中古の住宅を買ってリノベイションを考えている.不動産屋をいくつか回ったが決めかねているという.

 彼らが事務所を知った経緯はこうである.
 気になっていた空き家が、いつの間にか買い手が付きリフォームがスタートしていた.一方、市内の設計事務所のウェブサイトを手繰っていると、その気になっていた空き家のリフォームの工事の状況がアップされている.その設計事務所が私たちだった(その空き家は後に坂の上スタジオと住まいとなる).

 その後、実際に会い、何度か話をする.土地を購入して新築でつくってしまおうかという話も出たが、彼らのライフスタイルを考えると借入れの負担が大きいし、それよりも、新築を建てること自体が彼らの趣向に沿わないようであった.市内でちらほらと良好な空き家が出てきているから、もう一度物件を探してみようということになった.後日、一緒に4つの物件を内覧することになる.

 住宅団地の中にある住宅2軒、川沿いの住宅、そして最後に見たのが山裾の住宅だった.先の2軒は、床組みが沈下し構造的な劣化の進行が明らかだった住宅と、悪くはないが良いところもなく印象に残らない住宅で、却下となった.後の2軒である川沿いの住宅と山裾の住宅が良さそうだという皆の印象だった.その2軒の良いところ、悪いところを比較表にして彼らに提供し、彼らに判断をお願いした.
 少しして彼らから、山裾の住宅にしてみようかと思うという連絡があった.玄関ホールと階段の設えが良かったのと、何より、前居住者の手入れの丁寧さが見て伝わり、それが安心するということだった.庭もゆとりがあり樹木も豊かだったことも良かったという.築39年の不安もあるようだったが、屋根、外壁、内装、床下の状況を確認し、大きな不具合がないことを伝えて彼らの背中を押した.
 
 設計がスタートする.
 建物は築39年、木造軸組工法の2階建てである.
 まず外装である.屋根は桟瓦葺きでズレなどの劣化はなく、今回は手を加えていない.外壁はモルタル下地のリシン吹付けの大壁でクラックはほぼないが、色を更新するために最低限の塗装改修を行った.2階にバルコニーがある.床は塗膜防水で、外壁際に付いているシャッターボックスと防水層との取り合いの納めが悪く、そこから下階への漏水が見られた.シャッターボックスを撤去し、外壁際の納めを改善し、塗膜防水を改めた.

 次に室内である.まず、間取りを大幅に改変した.
 まず、キッチンの扱いである.既存の台所は北の端にあり、暗く、寒い場所だった.これを、南東の応接室があった場所に移した.床は解体し、土間をあらわした.土間にした理由は、まず、靴で利用でき、南面する庭と一体的に利用できるようにするためである.そしてこのキッチンは「yae.」として、クライアントの運営するショップ機能も持つ.ショップということは外部から他者が訪ねてくる.靴を脱がなくても気軽に訪ねてきてほしい.このキッチンをこの家のもう一つの玄関にするための土間化である.
 次に、この土間キッチンの外部性を隣接する居室に連続させた.特に、隣室との間仕切りを解体し、キッチンワークトップは延長し、そのまま食事テーブルになっている.キッチン上部の天井を解体し、上階と空気を繋ぐスノコの吹き抜けとした.土間キッチンには上階から通過した日光が射す.これらの操作の連続で、約50坪の住宅内の空気を繋げた.誰がどこらへんにいるなという気配がどこにいても感じられるような全体となった.ただし、ニッチ(凹み)や照明の配置、天井高さの操作で各所の「居場所」性は失わないよう注意した.一緒にいる空気はつくるけれども、各人の居場所は保たれている.
 さらに、回遊できる動線を新設した.特に1階中央の洗面脱衣室は2方向アクセスとし、行き止まりのない間取りの肝になっている.湿気がちな水回りに風の出入り口ができた.以上が間取りの改変で考えたことである.

 室内の仕上げ材は、ほぼオリジナルのものを活かした改修をした.クライアントが中古住宅を購入するにあたって言った「それまで住んでいた人の気持ちを引き継ぐ感覚がある」という言葉を空間化するために、まず、床の無垢板は表面塗装を剥がし木の手触りを取り戻す程度とした.壁の京壁や漆喰は劣化が目立つ部分のみの補修とし、大きく手を加えていない.床を解体した土間キッチンでは、荒々しい基礎コンクリート、ほぞ穴の付いた柱梁、大工の墨付け跡が現れたが、隠さず、そのまま意匠とすることでこの住宅の経てきた時間を空間化した.
 全体は作りこまず、特に2階は小屋組みをあらわした状態であえて改修を終えている.何かの本で誰かが、カブリオレの車を選ぶけれどもホロを開けて走るのは年に1度か2度ある程度である.彼らは「いつでも開けられる可能性」を買っているのだよ、と言っていたのを思い出した.この住まいでも、つくりこまず、いつでも手を加えられる余地を残しておくことも、一つの豊かさであると思った.

 これまでこの住まいは専用住宅であった.専用住宅とは私的な空間だが、本改修は新設したキッチン兼ショップであるyae.を通して私的な空間を他者と出会う空間に改編していく取り組みであった.クライアントはこの住宅の前オーナーを見学に招くという.オープンなその意識が、この空間で支えられているのだとしたらそれは目指したところである. (2020.4)


敷地 栃木県鹿沼市
規模・構造 店舗併用住宅(雑貨店、ピザ店)
延床面積 -
総工費 1,500万
竣工年月 2020年
撮影
アラタケンジ(上から19枚)
掲載誌


既存の間取り、高さ、材料、構造、構法、劣化具合を実測調査し、改修設計のスタートに立つ準備をしています.('19.3.4)