現場に着いたのは昼過ぎだったから、半日の作業を終えた脇本さんが向こうからアプローチの坂道を降りて出迎えてくれる。アプローチと言ってもいまは草草が繁茂しとてもアプローチには見えないけれども、以前は砕石(面前の沢で採れる石だろう、この辺の石は赤茶色をしている)が敷かれた堅く頼もしい路面の記憶があるからアプローチと呼べている。半日の経過を見たくてアプローチを上ろうとすると脇本さんは、鹿がいますよ、ときてそうだここは現場であるまえに山だった。沢の対岸に鹿がいる、罠にかかって静かにしている、木にピンク色のリボンが付けてある場所、きっとあれは罠の印ですよ、とつづける。その印の先を見るといて、角が立派でその下の真っ黒なツヤのある目がこちらを見ている。