痛みが進んでいるのは山と接近している部分がほとんどで、たぶんこの接近はオリジナルではない。屋根に山に向かって延長された痕跡があり、後に増築されたのだろうと見える。山との距離を縮めて、言い換えると建物を水気に近づけてまで増築されたスペースの動機は気になるところだったが、このスペースはこれまで立ち入ることができず未見だった、残置物で埋め付くされていたからだが、金子さんたちが清掃し、腐朽した外壁を取り除いてくれたことで見られるようになっていてまず軸組とその向こうに見えた地の岩盤と石積みが美しくて写真を撮った。このスペースは、土間のすぐ脇にあって清掃のし易い土間コンクリートになっていること、出入口になっている部分の両脇の柱に柵状の建具を建て込めるようになっていることから、馬かもしくは牛のためのスペース、農耕か運搬の用に働いた馬か牛のための厩と書いてウマヤだったのだろうか。金子さんは、牛小屋だ、と言って、軸組はそれほど痛んでないから無理に壊さず残しておいていいんじゃない、とやや期待を込めた感じで言っている。山側の足下には水止めのための鉄筋コンクリート製の擁壁が出てきた。先の家人の、山との近接性と生業の切実とのあいだで戦ってきた痕跡である。