
Sさんが事務所のドアを叩いたのは、たぶん半年くらい前だった. とても恐縮した様子で、自宅の土地のことで困っていて誰かに相談したいのだが たまたま通りかかったとき、設計事務所という表記に誘われて立ち寄ったというのが最初だった. ひととおり話を聞いて、じゃあ近々現場を見に行きましょうということでその日は別れた. しばらくして今日、現場を案内頂いた. 広大な敷地に、オーナーの主屋や付属屋、作業場、土蔵などに加えて、 一角に、これから販売するという80坪程度の分譲宅地が数区画も用意されている. この分譲地の運用こそがうちの事務所に協力を求められたメイン事項だったのだが、 僕は今は物置化した土蔵の佇まいがどうにも気になっていた. 無理を言って内部も見せてもらったのだが、低い天井に構造材の重みが漂い なんとも詩的な室内空間が残っていたのである. 思わず、ぜひここを片づけて飲食店なのかギャラリーの運営者に貸してはどうか、と提案した. Sさん夫婦は少し困惑したようだったが、少ししてそれもいいねえと笑顔になられた. 一戸建て住宅が建つであろう分譲地の側のこの土蔵が上手く利用できれば ほかの住宅地とは違う風景がつくれそうなのである. 近々この土蔵の実測調査を約束して今日は別れた.