初めて奥沢のDを訪れたのは大学3年か4年だった.
当時学科のスタッフだったFさんから、良いから行ってみたらと言われたのがきっかけだ.
そういう場合はたいてい、適当に聞き流して行かず仕舞いなのだが、その時は気が向いて少し経ってから行ってみたんだと思う.
場所はクホンブツ、という聞いたことのないところだった.
クホンブツは調べると九品仏で、東横線の自由が丘で都営三田線乗り換えて直ぐのところだった.
九品仏駅からDまでは少し歩くのは下調べで分かっていた.
意外だったのはその道中が静かな住宅地だったことだ.
もっと賑やかな商業地を予想していた.商業施設が商業地に建っているだろうという先入観があったからである.
こんなところにあるのだろうかと住宅地を10分程歩いて環状8号線にぶつかったそこにDがある.

環状8号線沿いといっても相変わらずそこは先の住宅地の一角である.
建物は古びた中層のRCで、田園マンションという小さな名板が掛かっているだけ、外観はまったく控えめである.
最初はここが目的地なのかどうか気付かず、通り過ぎた.
反対側から折り返してくると黒の箱文字、丸ゴシックのD&DEPARTMENTという表示が見えてようやくここが目的地であると分かった.
店舗は通常、周囲との差異でその存在を周知するものである.
しかし、この店は田園マンション以上に目立つことをあえて控えているようだった.
昔からここにあったような佇まいである.
路面は柱を除いて全てがガラスサッシで、白のブラインドが下りている.
そのスラットの隙間から覗き込むと、どうやら飲食店のようになっていることにかろうじて気付く.
外来者が中に入っていいのか心細くなるような、素っ気ない店姿.これがDと僕の出会いである.

Dは1Fがカフェ&ダイニング、2Fが家具や日用品の販売スペースになっているが、
初めて行ったその時にそれを知っていたかは覚えていない.
エントランスホールに入ってその正面がダイニングになっているけれど
まだ昼食には早かったからか、まだダイニングがやっていなかったからか、
そのときはまず2Fに上がってみたんだと思う.
2Fは奥行50mは超えそうな奥に長い一室空間の販売スペースである.
床は塩ビタイル、壁はRC壁にEP白塗装、天井は吸音ボードに同じくEP白塗装、
壁面の殆どは少しくたびれたシルバーのアルミサッシガラスである.
おそらく、EP白塗装以外はDが入る前からのオリジナルである.
その大空間に、様々な家具や日用品が陳列され、しかも什器はよく見かける工業用スチールラックである.
それをスポットライトが控えめに照らしている.
商品は殆どが中古や新古品だったと思う(新品もあったか).カリモクやアデリアや天童などの今までどこかで見たような製品ばかりである.
そこを、白いシャツを着た数人のスタッフが立ち回っている.
インテリアは、これだけである.
ユニークだったのは、スチールラックに陳列された商品だけでなく
そのスチールラックまでも商品だったことである.
つまり、この2Fのインテリアをつくっているほぼすべてのものが、同時に商品なのである.
この面白さに気付くのは、あと数回ここに通ってからである.
というのも、行く度にインテリアが大幅に変わるのである.
考えてみれば、インテリアの殆どが商品なのだから当たり前である.
さらに、EP白塗装をしただけの素っ気ない空間が、インテリアの変化(商品の売買サイクル)をより劇的な変化に見せていた.
扱われる商品は、販売する側の意思やメッセージそのものである.
ここに来ると、身体全体でそのメッセージに触れているようで、また、Dの試行錯誤の中に飛び込んでいるようで、とても緊張感があった.
1Fがダイニングである.
インテリアの構成は、2Fとほぼ変わらない.相変わらず、既存の壁、天井にEP白塗装を施した程度である.
ソファやテーブルは、これもまた買うことができる商品で統一されている.
長細い室内に、厨房と客席を隔てるカウンターが長手方向に伸びている.トップはステンレスの無垢板である.
厨房と客席はカウンターで一応は隔てられているが、まったくオープンである.
これが、良い.サービスする側、受ける側という分けを感じさせない.
どちらも一緒になって室内風景をつくっている感じがする.
みんなでこのダイニングをつくっている、みんなでここで食事をしながら、その先を考えている、そんな感覚である.
活発に動き回るサービススタッフの動きが目に入る.
席に案内する、注文を聞く、水をつぐ、配膳する.この動きが、爽やかである.
特に、注文を伺いに来るタイミングが絶妙である.
席に着き、メニューをパラパラと手繰っている客に対し、そろそろ手を挙げて呼びそうな空気を絶え間なく察知しているような感じである.
手を挙げれば、すぐに気付き、やってきて腰を落とす.
水を注ぐタイミングも同様である.過度でなく、不足もない.とてもクールである.
このダイニングは彼らが舞うための舞台のようである.見ていて飽きない.その質が、このダイニング独特の緊張感を保っている.
トイレに立つ.トイレの場所のアナウンスは店内に見当たらないが聞くとダイニングの奥である.
ここで2つ驚いた.トイレまでは30mくらいの長いアプローチなのだが、道中の両脇には何やらモノが大量に積んである.
よく見ると2Fの販売スペースで扱っている商品である.それが無造作に積まれている.
普通、店舗に並ぶ前の商品はストックヤードと呼ぶような表から隠された室に保管されるものである.それにまず驚く.
もう一つは、アプローチの途中に部屋があり、音楽が漏れ聞こえてくる.灯りも点いていて人の気配がする.
開いたドアの隙間から察するに、そこはスタッフが使用するデザイン室なのか製作室なのか料理の試作室なのか、いずれにしてもスタッフルームのようである.
数人でミーティングをしているようなそんな気配である.
普通、そのようなスタッフルームは一般の目から離れた奥に隔離されるものである.これにも驚いた.
ここでは、隠されるべきものが表に晒されている.
サービスの突端だけを取り繕って利用者に提供するのでなく、そこに至る過程も晒す.
そこに至る過程とは、Dの日々のデザイン活動そのものである.
デザイン活動自体がお店の設え、空間にダイレクトに表現されるのである.そして、それが日々刻々と変化する.
店内は先に書いたように、Dが入居する前のオリジナルをベースにしつつ、EP白塗装を施しただけの素気ないインテリアだから、
その活動によるインテリアが劇的に強調される.
利用者としての僕はDの試行錯誤の只中に飛び込んでいるような感覚だと思った.
Dの試行錯誤そのものを楽しむためにそこに通う、そういう感覚だと思った.
活動が建物ファサードやインテリアにダイレクトに表現される空間のつくり方について、
Dを初めて訪れて以降、ずうっと考えている.
鹿沼に自分の設計事務所をつくり、いくつか建築をつくりながらも、そのテーマはずうっと頭の中にある.
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