20250120
『実測/生活を「ものにする」ための測る、記録するスキル』
建物の調べ方、と聞くと、なんだか難しそうで、限られた専門職の仕事であると遠ざけてしまう人が多いようです。でも建物は、誰もが毎日過ごす生活の場です。生活の場のコンディションを自分で計ることができるようになれば、生活への興味は深まります。
こんな経験があります。
鹿沼のとある老舗(精肉店でした)の主人と、その家の家伝について話していたとき。この部屋は娘が生まれたときにリフォームしたんだ、何年前かな、娘がいま40だから1985年くらいか、ほら柱に花柄の色紙が貼り付けてあるだろ、娘が中学生くらいのときに彼女が貼ったんだ、木の色が古くさいから嫌だってさ……
人の歴史は、建物の変遷と紐づくことで彩度が増すようです、建物は、「記憶装置」のようですね。建物の調べ方が分かると、あなたの歴史やさらに先の時代を生きた人たちの記憶に触れることができるかもしれません、と言うのは大袈裟にしても、推理小説を読むような、遺跡のささやかな発掘調査に参加するような、そんな面白さがあります。
建物を調べる、とは、『民家のみかた調べ方』(S42、太田博太郎ほか)によると次の7つで示されます。
➀間取りがどうなっているか
➁造り方(構造)がどうなっているか
➂古い時代にはどういう形をしていたか
➃どういうふうに使われたか
➄いつごろ建てられたか
➅敷地との関係はどうなっているか
➆外観はどうなっているか
とあり、この7つのスコープで建物を見つめると、その特徴が見えてくる、といいます。
見えてきた特徴は「記録」します。忘れないようにするためというのはもちろんですが、他の人にも伝えられるように。自分にだけ分かるメモではなく、誰がみても分かるように共通性をもった記録、それに最適なのが「図面」への記録です、これを「実測」といいます。
実測と聞くと、これまたひどく難しく感じますが、一度要領をつかんでしまえばとても面白い作業です。少しずつ出来上がっていくそれに夢中になりつい時間を忘れてしまう、僕にも経験があります。
先の➀から➆それぞれの記録に適した図面があり、たとえば➀なら平面図、➁なら断面図、➅なら配置図、➆なら立面図。この4つの図ができれば、その建物の特徴をだいたい示すことができます。あとは写真撮影とか、家主へのインタビューもできれば、十分立派な建物の記録=実測の完成です。
少なくとも➀ができるだけでも、部屋の模様替えの計画や、家具や家電の新調(私の部屋に入るかな?)といった誰にも経験があるあのシーンでも、このスキルが活躍すること請け合いです。
図版出典『『民家のみかた調べ方』(S42、太田博太郎ほか)